八月の朝(著:なしお)

2016.09.05.Mon.22:52
子供の頃、学校を休んだ日なんかには、たいていNHKの教育番組を見てたから、舞ちゃんの訃報にひとつ捧げたい。

短編 八月の朝(著:なしお)
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「舞ちゃんが死んだ。」(たいしょう)

2016.09.05.Mon.13:38
「ひとりでできるもん!」の舞ちゃんは、当時の僕が唯一尊敬できた異性だった。

「ひとりでできるもん!」は、1991年からNHK教育テレビで放送され、ヒロインの舞ちゃんの食育をテーマにした番組である。
本編では、舞ちゃんと他キャラクターとのやり取り、料理に合わせた曲とあるが、見せ場はやはり調理シーンだといまも思う。

そもそも子供というのは、母や誰かが作った料理を食べるだけで、自分から料理することはない。手伝わされることはあるが、主導権を握ることはない。
当時の僕は小1で、「今日の夕飯は何かな?」程度でそれ以外に興味なかった。それが、「ひとりでできるもん!」で一変する。

テレビに映る舞ちゃんは一人でなんでも作った。身近な料理から、大人じゃないと作れなさそうな料理を僕らに見せてくれた。
勿論見えないところでスタッフが手を貸しているのだが、そんなこと関係なかった。
子供は自分から調理をしない一方で、大人のやることに憧れる。舞ちゃんは調理という大人がやる行為をすることで、子供が料理に興味を持つことができた。
さらに、小学生ぐらいから子供は異性の違いを自覚し出すが、彼女は別格で、大人の女性(実際は1つ年上)とまでいかないが、素直に尊敬できる異性だった。

僕は、いつの間にか彼女のファンになり、彼女がいなくなるまでの「ひとりでできるもん!」を楽しみにしていた。
もし彼女に出会わなければ、料理なんてすることはなかっただろう。


追伸。
舞ちゃんこと平田実音さん、いままでありがとうございました。そして、心よりご冥福申し上げます。

「舞ちゃんが死んだ。」(ボブ)

2016.09.03.Sat.00:51
「舞ちゃんが死んだ。」
「どこの?え、あの子が死んだのか?」――家や友人の間ではその名前で通じた。
すでに芸能界を引退していて、関係者から知らされたことであって、もう1か月近くも経っているという。

知らないうちに死んでいた元芸能人が
これほど強い「喪失感」
「喪失力」とでも言えるような心を締めつける力をもっているとは
きっとその関係者も思っていなかったかもしれない。

「ひとりでできるもん!」というNHK教育テレビのひとつの番組で彼女が僕たちに残したものは、単純にその番組内容の「料理」だけではない。同じ年頃の女の子が挑戦をすることによって自分たちにも料理を促すとかそういうものじゃない。
むしろ1年生でどれ自分もと試した揚げ物で大失敗し、僕はそれから4年くらい料理をしなくなった。

それでも僕は彼女を観つづけた。
「同じ年頃の女の子が挑戦し続け、大人になっていく姿」
それ自体が、そのテレビ番組のやっていた年頃の僕には強く興味を持たせるものだった。

「同じ年頃の少女が動く」
子役の演技で、何ともいえない手際で料理をしている。

「同じ年頃の少女の姿を学校でまじまじと見ることなんて無かった」
それをテレビではあるものの見ていた。
あの時、自分は彼女に対して一体なにを思っていただろうか。

これは初恋ではない。
うん、確かだ。

たぶん、彼女はそれよりも前の段階で、異性を意識するきっかけ。
異性はずっと見てはいけなくて、絵本やアニメの中にしか居ないと思っていた
あの頃を彼女は終わらせた。
だから彼女の姿は初恋の相手よりもしっかり残っている。

今日まで、たぶんわりと多くの人達も自分のようにいつのまにか彼女を綺麗に忘れ去って
ある時、似た人を見た時とかにふと思い出し、懐かしむ
そういう風にずっと繰り返して来たことだろう。

そして、この死の報に衝撃を受けたことだろう。

僕は彼女がオープニングシーンで、テーマパークへ駆けていくあの姿が好きだ。
それはたった一瞬のこと、いつも見ていた一瞬だ。
でも、その前のシーン。
テレビの舞ちゃんが8月5日にいつもと同じように駆けのぼていった階段は
大人よりも、ずっと先の場所に続いていたのだろうか。

今はその冥福を祈るばかり。


平田 実音 2016年8月5日歿 享年33歳 死因:肝不全
 
経歴:NHK教育テレビ『ひとりでできるもん!』の初代「舞ちゃん」として活躍。